So-net無料ブログ作成
検索選択

やはりWEDGEは駄目だった 高速道路無料化批判について [鉄道]

東海道・山陽新幹線のグリーン車に乗ると、無料で読める(持ち帰れる)雑誌である。内容は大手企業がバックにあるとは思えない総会屋臭のする記事が多いが、ネタにはなる。(葛西敬之の思想の反映とも言われる)
車内販売や私鉄のキオスクなどでも400円で買うことができるが、JR業務用の大型時刻表と同じで、車内のものは価格表示がない非売品扱いである。

今回の目玉は全体として民主党政権たたきのようで、冒頭近くに載っているのが
「高速無料化は愚策 元凶はニセ民営化」
というものだ。
某氏の言うように、JRにとっては「おまえが言うな」とも称すべき内容だ。が、JR東海は厖大な国鉄債務のうちでJR負担分の多くを負担している親孝行(?)な会社だから、これくらいは主張することは許されよう。
筆者もただ者ではない。一橋大学名誉教授で、高速道路民営化を主張する著書を岩波書店から(岩波ブックレットだが)出している宮川公男である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%AE%E5%B7%9D%E5%85%AC%E7%94%B7
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0093200/top.html

だが内容は乏しい。道路公団民営化のあり方を批判する内容は肯是できる(講演で聞いた限りは、葛西も同じ意見のようだ)。が、民主党批判の部分は国際的視野と地方の事情への目配りを欠いている上に、民主党の政策すら吟味しておらず、ピント外れの内容である。
筆者の最大の主張の根拠は
「高速道路料金は特急料金のようなもの。時間短縮と設備料金である。金を払いたくないなら、時間をかけて一般道を行け」
という原理である。
これに派生して
「高速道路料金は時間短縮効果の時間価値に対応する」
「高速道路を無料化しては、渋滞で時間短縮効果がなくなる。料金と引き替えに所要時間を短縮させる機会を失わせる」
「民主党の主張する経済効果は疑問である」
という主張につながる。地球環境問題との関係は論じられていない。

一見尤もらしいが、世界の鉄道や高速道路事情を知っている者からすれば、前提がおかしな議論である。
ドイツやイタリア、東欧にはIC料金、ICEやESスターの追加料金の概念はあるが、イギリスやフランス、ベネルックス三国、スイス、オーストリアなどには、日本のような特急料金の概念はない。距離比例の普通運賃体系があり、別個に割引運賃などがある。航空機対抗で長距離ほど驚異的な安値も多い(チューリッヒ~ウィーン29ユーロなど)。アメリカもアセラは別として、アムトラックに特急料金という概念はない。寝台車やクラブカーの設備料金を取るだけだ。
特急料金のたとえは、日本の国内的な狭い常識しか知らない多くの新幹線乗客をだましているようなものだ。

バス業界ではもっと逆の認識である。運賃は運転手の人件費(が8割くらいを占める)必要経費、すなわち所要時間に比例するという発想も一般的である。西鉄バスなどは一般の路線バスでも都市高速道路経由の方が乗客の利便性が高いにも拘わらず、下道をだらだら進む路線より運賃は安い。
一般に高速バスは普通の路線バスより設備がよく、所要時間の短縮が図られる。にも関わらず一般路線バスより距離比例で運賃は安くなっている。典型的な事例としては金沢~富山の高速バス(北鉄金沢中央バスと富山地鉄)の運賃と、金沢~福光のJR・加越能バスなどが挙げられる。富山の方が倍くらいも遠い。
東京近郊はけっこう長距離で均一運賃のバスが多いので分かりづらいが、均一運賃でない近郊区間のバス運賃は結構高いものである。

韓国の市外バスと高速バスの関係も同じである。昔は京釜高速を走って大都市を結ぶ高速バスと、地方都市を一般国道で結ぶ市外バスという明快は区分があった。車両も全くレベルが違った。ハイデッカーの高速バスと、トップドア・ロマンスシートの一般バスといった感じだったらしい(これは詳しいひとに教えてほしい)。現在では設備の差は相対的(かつての東京空港交通と京急の空港バスの関係を思えばいい)なもので、市外バスも高速道路を走ることも多い。
だが相対的に設備が劣る市外バスの方が、距離に比べて高速バスより運賃は割高である。

特急料金という概念自体、世界では普遍的ではないのである。


そもそも無料にすれば渋滞するという前提がおかしい。ドイツのアウトバーンやアメリカのインターステイトハイウェイの中で日常的に渋滞するのは、都市部のごく一部である(行楽シーズンは別だ。ラスベガス~ロサンゼルスは全線で最低で片側3車線確保されているが、週末は砂漠の真ん中で渋滞したりするし、欧州のバカンスは日本の盆暮れの比ではない)
前に書いたように、国土交通省の予想でも、無料化で渋滞するのは大都市近郊とせいぜい政令指定都市レベルだけである。
暫定2車線区間は別だが、これは世界水準に4車線化するのが辺り前だ。民主党も4車線化中止は緊急避難であることは、強調している。だいたい平野部でトンネルのない区間は工事費もかからないのに、4車線かが進んでいなかったりする。従来の高速道路工事は利用者の便益のためでなく、土建業者を潤して、経済効果を得るために、工事費のかかる区間を先に工事していると思わせるものも多い。まあ国鉄の羽越本線や奥羽本線の複線化工事もそうだった。交流電化で非電化時代のトンネルは掘り直しが必要なので、工事費のかかるトンネル区間の複線化は進むのに、田園風景を走る青森平野や庄内平野、秋田周辺が複線化されない不思議である。
そもそも民主党の主張では、渋滞する道路は無料化しないと明記しているのであって、それを忠実に実施すれば無料化で渋滞するはずはないのである。
確実に無料化されて意義があるのは、北海道など本当の閑散区間か、北陸自動車道、中国自動車道、北東北の東北道など全線4車線化されて久しい道路である。

だいたい時間短縮効果論は、都市と地方の所得格差を無視している。公務員や公益企業以外、地方では年収300万以下、月給20万円以下の層がどれだけ多いことか。鹿児島県阿久根市の市長が選挙で支持されているのも、公務員以外の所得が低すぎるからだ。この点で民主党の最低賃金引き上げ案は企業の海外流出を招く可能性はある(そんな近視眼的な選択をする売国的な企業は、松下幸之助が言ったように長期的にはつぶれるか衰退する)ものの、地方振興策としてリンクしている。
北陸や長野は大都市に次いで県民所得が高いので、ここでは除いて考える。青森や秋田あたりの事情を見てみよう。正社員で月の手取り12万円も当たり前だ(驚くべきことに20万円以下の手取りの世帯で、妻は専業主婦だったりするのだ)
それでいて、文化的生活と世間体には大人一人1台のクルマは必須だ。軽自動車にして節約するほかないが、通勤割引で300円程度の高速道路台も払えない。毎日往復で使ったら1日600円、20日出勤で月12000円だ。月収30万円以上あればどうにかなるが、15万円だったらどうだろう。
だいたい収入が時給換算で600円台だったら、渋滞で片道30分余計にかかっても一般道を使うのが、初歩の経済学だ。しかも家計が苦しければ、その300円すら節約するのが人情だ。たとえ渋滞で1時間余計にかかってもである。
ガソリン代を考慮しても、大勢は変わらない。渋滞で燃費が悪化してリッター20キロが10キロになっても、20キロの移動にかかる追加コストは1L分のガソリンで120円程度である。高速道路代よりはるかに安い。
そもそも地方住民の全てが、このような合理的計算の下で行動選択をしているとも思えない。多くの人々はガソリン代を自動車税と同じ固定コストと考える一方、高速道路を贅沢品を考えて使わない習慣となっているのが実情である。

週末の遠出なら、高速無料でも半額OR上限1000円でもいいかもしれない。ガソリン代との比率が問題だからだ。毎日なら、半額でも地方民には高すぎるのだ。
nice!(0)  コメント(7)  トラックバック(1) 
共通テーマ:自動車

nice! 0

コメント 7

ケレス

世界がどうかなどと言い出せば、JR(や大手私鉄)のようにローカル線維持を幹線輸送や大都市圏輸送の内部補助"だけで"賄うという方法もまた普遍的なものではないわけです。

本来は、幹線輸送、都市圏輸送、ローカル輸送それぞれを誰がどのような方法で運行し、どのような方法で赤字を補填するのかという交通政策が議論されるべきなのです。しかし、現状では幹線輸送が打撃を受ける一方で、その内部補助に頼っているローカル輸送維持の方策については方針すら出てこない。

ヨーロッパのごとく公的支援を入れるにも、高速道路建設費の償還に税金投入する一方、特定財源は減税、一般財源の増税もしないのが方針ですから、おそらく、そこまで民主党が踏み込むのは無理でしょう。

JRがあらゆる方法で理論武装して反対するのは自然な成り行きだと思います。

新幹線にしても割引はありますし、JR九州の特急等のように運賃を下回る値段の特急用指定席の割引きっぷを大々的に発売している事例もあるのですから、別段日本が特急列車利用を高止まりさせているわけでもありません。その観点ではヨーロッパと特段差があるとも思えませんが。
by ケレス (2009-10-15 23:20) 

東雲のミネルヴァ

私もJR東海以外は、それほど世界の趨勢と変わりはないと思っています。JR九州だって東日本だってそうです。現在の葛西体制のJR東海だけ変なんです(須田時代はそれほどひどくはなかった)。

角本良平みたいに「交通機関が公的補助なしに存続することは不可能。日本の鉄道な歴史的な例外中の例外」と言うのも極端ですが。
by 東雲のミネルヴァ (2009-10-16 14:16) 

ケレス

JR東海のどのへんが世界の趨勢に反しているのでしょうか。東海道新幹線と航空機の競争はさんざんニュースでも取り上げられており、不当に高い料金設定などやりようがないでしょう。

また、JR東海による東海道新幹線買取り額は5.1兆円で、さらに元々老朽化が懸念されていた施設でもあり、現在5000億円を施設更新の為に積立ている最中です。つまり東海道新幹線を保有するために約5.6兆円の投資を行っているのです。これは約110億円/kmの建設費で東海道新幹線を作るのに等しい訳です。

一方で整備新幹線の建設費は例えば、九州新幹線博多-新八代が約70億円/kmでありさらに全額JRが負担しているわけではないことを考えると、JR東海の新幹線保有にかかる負担の大きさは他の新幹線をはるかに凌駕しています。ちなみにJR西日本の山陽新幹線購入額は1兆円に満たない額です。その上で国鉄債務3100億円の返済はともかくとして(新幹線買取り、その前のリース料も国鉄債務には違いない)、その収益からの内部補助だけでローカル線の維持を行っているのがJR東海の経営状態です。

このような形での高速鉄道保有・運行が世界の趨勢なのでしょうか。料金だけを取り出して世界の趨勢だの言われても、説得力を感じません。
by ケレス (2009-10-16 17:22) 

東雲のミネルヴァ

詳細なコメントありがとうございます

JR東海に世界的視点がなく、国鉄時代のままの「Kokutetsu uber alles」である理由は別記事をご参照ください。
by 東雲のミネルヴァ (2009-10-18 13:27) 

たま

この論文を病んだ一人だが、内容に論理性が全くない。
学生にこの論文の論理矛盾点を考察させたら、でるわでるわ。
その旨、筆者にご連絡したが、、、

世の中、膨大な文章、方法があるが、殆ど論理的でない。
こんな程度じゃ、自動車は動かない。

技術者レベルの論理性が必要なのだが、、。
by たま (2009-11-08 13:21) 

東雲のミネルヴァ

論理矛盾というより、論理展開がおかしいという感じです。
「夜に約束がある。だから朝から仕事を休みます」
みたいな論理展開が多いように思います。

それにしても
「その旨、筆者にご連絡したが」
気になる表現です。

by 東雲のミネルヴァ (2009-11-09 23:28) 

999

高速道路無料化の議論を見ていると、賛成・反対双方の方々の共通の認識として、日本では当たり前なのですが高速道・一般道という区別がハッキリしていることに気づきます(*)。 極端に高額な料金や旧来の一般道があまりにも貧弱であったこともあり、高速と一般道の明確な区別を日本国民は否応なしに植え付けられてしまったのですが、私道から高速道路まで、それぞれが結びあって一つのネットワークを作り道路本来の「 A地点からB地点までより安全に、早く、安く、少ない疲労で、そして沿線住民や環境への負担も配慮しつつ人・モノを移動させること」という使命を果たすと考えれば、折角より優れた道路(高速)が出来上がっているにも関わらず、その部分だけ特別(有料)扱いして、結果的により社会的マイナスが大きい道路(一般道、理由は後述)に車を誘導することが如何にナンセンスであるかということが見えてくると思います。

 具体的議論についてですが、もし利用者負担を謳うならネットワークの一部として欠かせない一般道も全て有料にすべきですし、もし無料化により一般道の車が高速に流れて来て混むというのであれば、それはその区間の高速が動脈として不十分であるためで、社会インフラ整備の観点から車線増強や流れを分散させる新たな高速を作ればいい話です(すぐには出来ませんが、理論として)。 また、もし無料化によって今まで外出しなかった人も外出するようになるので渋滞するというのであれば、逆説的に言えば今までは高い高速料金が人々の行動欲を押さえていたわけで、経済活性化の観点からすれば由々しき問題であると言わざるをえません。もし考えの根底に「俺にとって高速料金なんて安いものだから、無料化が理由で高速を使い出す様な車は増えて欲しくない。貧乏人は家でジッとしていろ」というのであれば、それはエゴ以外の何物でもないと思います。 「高速は早いから利用者は“特急料”を払うべき」といった議論も、高速道路を特別視し、スピードが出せることだけを念頭に、高速道路も道路ネットワークの不可欠な一部分であるという根本的な存在意義を理解していない議論に思えます。 そして何よりも財源の話ですが、将来SFの様な空飛ぶ車が一般化すれば別ですが、それまでは道路インフラは空気・水・電気と同等の無くてはならないものであり、運転する人、しない人に関わらず国民全員に無くてはならない存在です。それを国民全員の負担(つまり税金)で整備することは当たり前のことで、高速道路とて例外でないことは上記説明の通りです。目先の予算ではどうやって無料化の費用を捻出するかなどと論じられていますが、それはテクニカルな話であって、大局的に見て税による負担は当たり前です。       

最後に私が論理ではなく肌身で感じている一番の問題点は、高速が金を取るため併走する一般道を走る車が増えるという現実です。高速道路がより優れた道路であることはいうまでもありません。一度事故が発生すると大事になりやすいのは事実ですが、交差点などがないため事故発生率は低く、加減速も頻繁に行う必要がないため制限速度で走っていればベストに近い燃費が期待でき、その分資源・環境への負担が軽減できます。 資源・環境への負担、沿線住民への安全・健康上の負担、運転手への安全、疲労、及び時間的損失(強いては余剰時間減少による消費減による経済への悪影響)などなど、一般道走行車両が増えることによる社会的負担は決して無視できるものではありません。もともと高速がない区間であれば仕方ありませんが、折角立派な高速が併走しているのに料金徴収によって実質的に高速を走れない車を多く作っている状況こそ、本当に大きな社会的ムダとしか言いようがありません。 


(*)例えばアメリカの場合、フリーウェイ(高速)があり、ハイウェイ(国道)もあり、その中間みたいな道路も多くあり(複数車線で信号もないが沿道にスーパーがあったりするバイバス等)、それらが市道や私道などの枝部と一体になって役割を分担しながら一つの大きな道路ネットワークを形成しています。 利用者も高速道・一般道などという区別なく(上とか下などと言った表現も存在しない)、一番合理的なルートを選ぶことになります。 結果的に長距離トラックなどが生活路などに流れて来る割合も減り、人々の生活環境の向上に結びついていると感じます。

by 999 (2010-07-08 19:27) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この記事のトラックバックURL:
メッセージを送る

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。